ドクター山見 公式ウェブサイト:ダイビング医学・潜水医学 diving medicine 潜水障害(diving injury)  
    非救急的なもの
    中耳腔スクイーズ
 
   唾を飲んだり、バルサルバ法(鼻をつまんで鼻腔内の空気圧を上昇させて、耳管から中耳腔に空気を送る方法)によって、空気を中耳腔に送る行為を耳抜きといいます。潜水中、耳管が閉じたまま潜降すると、中耳腔がスクイーズ(締め付け)を起こし、耳に圧迫感や痛みを生じます。予防は、潜降中、確実に耳抜き(両耳とも)をすること、頭を上にした状態の方が耳が抜けやすいので、フィートファースト潜降(足を下にして潜降)すること、上気道炎やアレルギー性鼻炎の症状があるときは耳管が閉塞しやすいので潜水を中止することなどです。
耳抜きのやり方いろいろ

    中耳腔リバースブロック
 
   中耳腔スクイーズの逆の病態です。浮上中、耳管が開放せず中耳腔の空気が鼻腔に排出しないと耳の圧迫感や耳痛を生じます。これを中耳腔リバースブロックといいます。潜降中、耳抜きができにくい、または、前回の潜水でリバースブロックを起こしかけたときには、次回の潜水でひどいリバースブロックを起こす傾向があります。
中耳腔リバースブロックが発生した場合は極力低速度で浮上させます。水中滞在時間が長くなるとボンベの空気がなくなるため、他のダイバーに追加のボンベを水中まで届けさせます。耳管の浮腫・炎症を軽減させることを目的に、抗ヒスタミン剤、エフェドリン、副腎皮質ホルモンを水中で内服させます。水中でも飲水可能な飲料水(チューブが付いているもの)も同時に届ける必要があります。

    潜水中耳炎
 
   中耳腔スクイーズが原因で起こります。中耳腔スクイーズを起こした潜水のあと中耳腔に滲出液が溜まり、耳の閉塞感や難聴、耳痛が出現します。予防は、中耳腔スクイーズを起こさないようにすることです。潜水中耳炎は放置してもほとんど数日以内に治癒しますが、潜水終了48時間後も症状が悪化している場合には耳鼻科医を受診する必要があります。

    中耳気圧外傷
 
   中耳気圧外傷とは、気圧によって生じた中耳の障害のことです。潜水中耳炎、中耳腔ズクイーズ、中耳腔リバースブロックなどがあります。

    内耳窓(卵円窓または正円窓)の損傷
 
   中耳腔スクイーズ、または中耳腔リバースブロックが原因で起こります。症状には、めまい、難聴、耳鳴りなどがあります。前庭神経症状を伴う減圧症(いわゆる内耳型減圧症)の症状ととてもよく似ているため鑑別が重要です。減圧症の治療で最も有効なのは高気圧酸素治療ですが、内耳窓損傷に対して高気圧酸素治療を行う(圧力下に入る)と症状を悪化させるため鑑別を慎重に行う必要があります。

    副鼻腔スクイーズ
 
   副鼻腔は、鼻腔と交通しているため、潜降時に、耳抜きのような行為を必要としません。しかし、上気道感染、アレルギー性鼻炎、または副鼻腔炎などがあると、粘膜が腫脹しているため、副鼻腔と鼻腔の交通が断たれ、潜降中、副鼻腔スクイーズを起こすことがあります。副鼻腔スクイーズを起こすと、潜水中耳炎と同様の理由で、潜水副鼻腔炎を起こします。前頭洞の頻度が最も高い傾向があります。

    副鼻腔リバースブロック
 
   副鼻腔は鼻腔と交通しているため、耳抜きのような行為をしなくても、通常、スクイーズを起こすことはありません。しかし、上気道感染、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などがあると、粘膜が腫脹するため副鼻腔と鼻腔との交通が断たれ副鼻腔スクイーズを起こすことがあります。副鼻腔リバースブロックは、副鼻腔に一旦入った空気が浮上時に排出されない状態です。前頭洞に頻度が高い傾向があります。症状としては、リバースブロックを起こした副鼻腔の部位に応じて、前頭部痛、額痛、頬痛が出現します。潜水後の顔面(前頭洞の場合は額部周辺)の違和感・疼痛として感じることもあります。副鼻腔を構成する骨は薄いため、副鼻腔内圧の上昇により空気が骨の間隙を通り、頬、眼窩、脳に漏れ出ることがあります。空気の流出を疑った場合はCTにて確認します。頬への流出は顔貌を大きく変えることがありますが2週間ほど経過観察すればほぼ改善します。眼窩への流出については予後がさまざまです。脳に空気が漏れ出た気脳症に対しては、脳圧亢進や感染など病状に合わせた治療を行います。高気圧酸素治療は再発の危険性があるため行いません。

    歯のスクイーズおよびリバースブロック
 
   充填物や補てつ物(金歯や銀歯)、またはう歯などがある場合、その歯髄や歯の周囲に空洞があると、潜降時に歯痛を生じることがあります(スクイーズ)。スクイーズより頻度は少ないものの、リバースブロックを起こすことがあります。潜降時になんとか空洞に入った空気が、なんらかの理由で浮上時に出て行かず、疼痛が出現することで起こります。レントゲンを撮り、空洞を確認して治療します。

    マスクスクイーズ
 
   ダイビング用のマスク(水中メガネ)は、鼻から空気を吐いて、マスク内に空気を入れることができるため、潜降中にマスク内が陰圧になることを防ぐことができます。しかし、ダイバーが潜降中、鼻から空気を出すことを忘れていて、マスク内が陰圧になってしまうとマスクスクイーズを起こします。マスクスクイーズを起こすと、眼球結膜の血管が切れて内出血したり、眼瞼やその周囲が腫脹することがあります。

    ウェットスーツスクイーズ&ドライスーツスクイーズ
 
   ウェットスーツまたはドライスーツと皮膚の間に空洞があると、ウェットスーツスクイーズを生じることがあります。症状は、皮膚の発赤、および点状の内出血などです。経過観察でほとんどは治癒します。

    消化管スクイーズ
 
   消化管もスクイーズを起こすことがあり穿孔する(胃や腸の壁に穴が開く)ことがあります。

    窒素酔い
 
   血液中の窒素分圧が高くなることで起こります。空気ボンベを使用した潜水では、水深30m以深くらいから症状が出現します。深度を深くすれば深くするほど、窒素の麻酔作用が強く出現し、水深60mでは、ほとんどすべての人が窒素酔いにかかります。通常、アルコール酔いに似た症状で、症状の程度には個人差があります。水深を浅くすると症状はすぐに消失します。
   

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